レトロのススメ~おさかなセンター(静岡県)~

 あなたが生まれ育ったのは内陸と沿岸で言うとどちらだろうか?海なし県と呼ばれるなら確実に内陸育ちだが、たとえ住んでいる都道府県が海に接していたとしても、内陸育ちのケースもある。私がそうだ。

内陸で生まれ育った人間は、やはり馴染みがないからか海へのあこがれが強い。それと同時に海のそばに行ったからには、新鮮な魚を食べなければいけないという意識も強い。

今回は、内陸育ちの私が東海地方で一番好きな魚市場を紹介したい。

 静岡県焼津市にある、おさかなセンターはレトロ感と活気で溢れている。

そう言われて、あなたは訪れたいと思うだろうか。機会があれば、程度だろうか。魅力を上手く伝えられないのは、何も感じなかったからではない。こういう市場がどこにでもあるものなのか、それともここにしかないものなのか。漁港をみた回数が少ない私の分析は不十分である。

ただ一つ言えるのは、この形態の販売方法はもはや絶滅の危機にさらされているのではないだろうかと言うことだ。

 市場ならでは、と言うのだろうか。ひとつの屋台に店員さんが2~3人いて、前を通れば、寄ってってとか、味見してみてとか、2つでいくらだよ、などと言う声が飛び交う。

そんな声をかけられるのはすごく久しぶりな気がした。これが苦手だと言う人もいると思う。私もどちらかと言えばそちら側だ。ひとりでいるときはなおさら、なんて話せばいいか分からないし、買わないときの切り上げ方に困る。だからと言って無視するのも、自分が冷たい人間に思えてしまうので嫌だ。繊細なのか臆病なのか。

それでいて同じものを買うなら、話しかけてくれたお店が良いと思ってしまう。ただここの良いところは、押し売り感がほとんどない。明るくてきさくで、必死感がない声のかけ方に、むしろ親しみが持てる。

冷凍保存の仕方から、調理するときの方法まで教えてくれて、どれが一番大きいか、美味しそうか、料理に使いやすいか、一緒に選んでくれる。これだけのことだが、スーパーやコンビニにはない、市場特有の温かさである。

私の地元でやっている小さな朝市もこんな雰囲気だったと思う。もう何年も行っていないから、不確かな記憶だが。地元の人から長い間愛される場所こそ、観光客も魅力を感じる。

 少し前だが、焼津の居酒屋で飲んでいたことがある。その店で頼んだ焼き魚の美味しさに驚いた。こんなに美味しい脂の魚があるのかと。居酒屋でこんなに美味しい焼き魚を食べるとは思わなかった。

その様子を見て、常連のお姉さんがおさかなセンターで売ってる魚だと教えてくれた。お姉さんも同じ魚を買って家の冷凍庫に保管しているらしい。

酔っているときの記憶力とはどうしてあんなに低いのかといつも思うが、教えてもらったお店の名前も、その日食べた焼き魚の名前すら憶えていない。覚えているのは白身魚だったのと、味がもともとついていたこと、それだけだ。

その記憶を頼りに銀だらの塩麴づけを買って、私の家の冷凍庫にも眠らせた。それが記憶の味と一致するかどうかはこれからのお楽しみだが、どうだろう、焼津が地元のお姉さんと同じような生活ができたではないだろうか。

同じ日本で生まれ育っているのに、地域性によって出てくる感覚の違いがあるのが私は好きだ。地元とは遠く離れたこの土地に住んでいて、今まで当たり前に感じていたことを覆されるのはなんだか少し嬉しかった。

こういった魚市場に行ったことがないわけではない。しかし今までは、旅行で行っていたので買っても家に持ち帰れなかった。スーパーとは比にならない種類の中からお買い得で美味しそうなお魚を選ぶということも、それを持ち帰られる範囲にあるということも、沿岸ならではの特権だ。

ネットショッピングや無人レジが発達し、世の中はどんどん人に関わらずに買い物ができるようになっている。便利な世の中になるということはありがたいことである。だが、忘れたくないのは、あの活気あふれる声の中を歩いて、知って、選ぶことがいかに楽しいかだ。

見た目も中身もずっと前から変わっていないような、そんなこの場所で美味しい海鮮と温かい雰囲気を味わってほしい。

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