お城に住んでみたいと思ったことはないだろうか。
抜き抜けのホールに、螺旋階段がそびえ立ち、キラキラと輝くシャンデリアにレースのカーテン。そんな白が基調となるすっきりとしたお城も良い。しかし、中世ヨーロッパのようなコテコテとしたお城もまた魅力的である。煉瓦や石で作られ、ベースは茶色だ。それでいて隠れ家のようなお城はどうだろうか。
吹き抜けのホールはないけれど、秘密基地へと続く迷路のような道がある。螺旋階段の代わりに、丸みを帯びた手作り感あふれる石の階段がある。そんな夢のお城を描き続けたひとりの建築家がいた。彼がつくった彼自身と家族のためのお城、それがぬくもりの森である。
建築家、佐々木茂良が憧れた村。そこは一歩踏み入れた途端、独特の雰囲気に包まれる。中世ヨーロッパのような、おとぎ話の世界のような、ジブリのような、どんな言い回しをしてもしっくりこない。他にはない、ぬくもりの森である。
中庭を囲んでガレージとキッチンと母屋。建物の屋根や壁から地面の煉瓦まで、ここを作っているもののすべては、どこも少し古びていて、そんな風化すら美しさの一部としている。こんな街に、こんな家に住めたならそれはどんなに幸せな日々か。そう思わせてくれる、まさに夢のお城である。
佐々木氏は、昔からヨーロッパの小さな村が好きだったようだ。この場所にも、個性あるいくつかの小さな建物がぽつんぽつんと点在し、それらを温かみのある道がつなぐ。自分の好きだと思えるものに、ひたすら夢中になることは、きっと本当に楽しいことなのだろう。あちこちにある、遊び心あふれる仕掛けがそう思わせた。
コーヒーと焼き菓子を買い、ベランダに腰掛けた。目の前にある建物も、見下ろす中庭も本当にきれいだ。この特等席に佐々木氏も座っていたのだろうか。自分がつくり上げたお城をどのように満喫したのだろうか。異国感のある建物に囲まれながらも、見える木々や聞こえる鳥の声は、馴染みのあるものだった。遠くには見慣れた日本の田舎の風景が広がる。そんなアンマッチな融合がまた、ここで日常が過ぎていたことを感じさせる。
本当に細部まで手が込められたものは、不思議だが、何も知らなくてもそれが伝わってくる。だから背景を知らないで歩いていても、尽きることのない可愛さに心が満たされる。
しかし、ガレリアでこの場所の歴史を知ると、違った見方をするようになる。この場所が他のどこかに例えられるわけがない。佐々木氏の頭の中にだけあった、ぬくもりの森なのだから。
今回紹介したのは、静岡県浜松市にあるぬくもりの森である。紹介した佐々木氏が住むために建てたお城は、ぬくもりガレリアのチケットを買うと見学ができる。ぜひそこで、紹介のVTRをみていただきたい。佐々木氏の思いと、この場所をつくっていく経緯を詳しく知る事が出来る。四季折々で姿を変えるこの場所にぜひ何度も訪れて欲しい。