なぜ人はスリルを求めてしまうのか。どうしてこんなものを造ってしまったのか。空高くそびえ立つジェットコースターを見上げる度に思う。そのどれもが下から見ると、高さのわりに細くて倒れてしまいそう。こんなレールをあの速度で滑走して良いものなのか。見ているだけで怖くなる。それでも乗ってしまうのはなぜだろうか。
冒険心がくすぐられるからだろうか。困難を乗り越えた経験をしたいからだろうか。乗れないのはかっこ悪いからだろうか。事故がまったくないとは言えないが、絶体絶命に直面するわりには、安全性が担保されている。これがジェットコースターの魅力だろうか。
今回紹介するのは、三重県にあるナガシマスパーランドである。こちらにあるスチールドラゴン2000こそ、世界最大級のジェットコースターなのだ。
開業当初ギネスに認定されたという、高度、落差、速度、全長。細かく説明すると、最高部高度97 m、最大落差93.5 m、最高速度153km/h、全長2479 m。数字を見てもよく分からないが、ギネスと言われればすごいと思うし、遠めに見るだけでもその偉大さは伝わってくる。しかし、乗ってみて初めて、この数字の意味を理解した。
絶叫で一番嫌な時間と聞かれ、ほぼ全ての人が、一番初めの頂上へ上っていく瞬間だと答えるのではないだろうか。落ちている最中も嫌な時間であることには変わりないが、所要時間がまったく違う。
ガタンガタンという音とともに、じわじわと地上から離されて、背もたれに体重がかかっていくのを感じる。最高部高度が世界最大級というのはつまり、この嫌な時間の長さも最大級だ。気づけば視界はひらけ、その景色の綺麗さを味わった瞬間に、薄々感じていた嫌な予感が的中する。
浮遊感が終わらないのだ。あれだけ上るのに時間をかけたのだから、それもそのはずだ。終わらない、いつまで経っても終わらない。乗っている私には、絶望からくる叫び声をあげることしか気を紛らわす術はなかった。
それでもなんだろうか。ジェットコースターから降りて、地面に足を着けたときのあの安心感と言うのか、達成感と言うのか、誇らしく清々しい気持ちは。生きていてよかったと、そう思えるのだ。
これは余談だが、絶叫好きの私が一時期から始めたスリルを高める方法がある。あえて記す事でもないのだが、もしも安全バーが外れたら、と想像するのだ。これでスチールドラゴン2000はもってのほかだが、むしろ想像しただけで乗れなくなるが、子供向けのジェットコースターでもそれなりに楽しめるのではないだろうか。
他にも、白鯨やフライングコースター、嵐などの大型コースターが絶叫好きを待ち構えている。自分は絶叫が好きな方だと思って生きてきたが、この場所で私はその自信を無くした。もう当分絶叫はいいかな、そう思わされるのだ。それは紛れもなく満足感だった。参りましたと思いつつ、遊園地を後にしたとき、明日も穏やかな日が続くことを心から願う。死の恐怖の後には、日常のありがたみが広がるのだ。
今回紹介したのは、三重県桑名市にあるナガシマスパーランドである。スリル溢れるアトラクションはもちろん、子どもでも楽しめる乗り物も多くある。またナガシマスパーランドを含むナガシマリゾートには、アンパンマンミュージアムや三井アウトレットパークなどのレジャー施設も豊富にあり、子どもから大人まで一日中遊べるところも魅力的である。